「なあ。どうしてあの廊下を通らなくなったんだ?しかもこんな階段、よく知ってるなぁ。エレベーターを使わないのか?メタボにはまだ早いだろう、俺じゃあるまいしな」
伏見の変わらない口調に、勢田の中の自分はそれに合わせようとする。
だが、口はまったく意に反していた。
「す、すみません!!」
謝罪が階段の中で響き渡ると同時に、勢田は伏見を追い越そうと駆け上がった。
「待ちなさい」
すかさず伏見が引き止める。このような出来事は仕事で何度か経験していて、勝手に手が動いているのだ。
だから嫌な予感がする。
「きちんと説明してほしい。探したんだよ、君を」
仕事とは違って、めいっぱいの優しさで伝えたつもりだった。
「す、すみません??ほ、本当にし、知らなかったんです。ふく、副社長だなんて???いい気になって、は、話したりして??申し訳ありませんでした」
勢田の身体が震えている。
「なんだ、そんなこと。気にしなくていい。社員じゃないんだから、関係ないじゃないか」
「だ、駄目なんです??僕は、も、もうっ???」
勢田は腕を振り払おうとしたものの、伏見は微動だにしない。
「何を言ってるんだ。ここではなんだから、場所を変えよう」
だが、ほんの少し力を緩めた瞬間、勢田は階段を勢いよく上り始めた。
愛したものが消えようとしている。
伏見の本能が直感し、呼び覚ます性。
「どうなってもいいのか?あのこどもが」
響いた声に勢田が足を止める。
「シイナ??あの子だけじゃないな。君のところの所属は全員起用しないように言ってやろうか。それくらいの権限はあるんだ」
伏見がたいして影響のない事務所を盾にとることなど簡単だった。そして勢田はその内容に立ち向かわざるを得ない。
「やめてください、お願いします」
振り向き、伏見の目を見る。
しかし勢田の表情は困り果てているといったもので、庭で見せた柔らかさは微塵もない。弱い眼光は伏見の性を揺り動かすだけだった。
「なら、今日の夜、またここへおいで」
「はい」
勢田が背を向けて階段をまた上り始めると、伏見は歯軋りした。
シアリス