ホワイトカラーエグゼンプション(自己管理型労働時間制)の導入案や企画業務型裁量労働制の対象拡大案、さらには月間80時間を超える時間外労働割増50%など、労働時間に関する法改正の動きに対して、各界で議論百出の状況を見せています。
あいにく自己管理型労働時間制は見送りとなりましたが、私は、様々な中小企業の労働環境を見知っている立場から、条件つきでこの案には賛成の考えでした。
ホワイトカラーエグゼンプションは「残業代ゼロ法案」などと、ほとんどのマスコミやタレント評論家から酷評されていましたが、長時間労働や過労死の問題とは本来区別して議論するべきところ、すべての企業が長時間労働の過酷な労働環境である(もしくは、導入すれば長時間労働を容認するものになる)かのようなもの言いで、おまけに対象労働者の年収が約100万円も減るかのような報道がされるに至っては、少しは労働法全般を勉強してから記事を書け、と言いたいくらいでした。
賃金と労働時間は重要な労働条件であって、それを一方的に労働者に不利益となるように変更することは、経営危機などの例外的事態を除き不可能です。
長い年月の間に既成概念となっているものを改革するには、マイナス効果が一部にあることを理解した上で、プラスの効果に強く目を向けていかない限り、改革は実行できません。こういった規制緩和には、事後チェック体制とセーフティ網の整備が前提となることは言うまでもないことです。
この自己管理型労働時間制度がなぜいいのかといいますと、「時間で働く」ことから脱却し、自己の裁量で自主的に仕事の段取りを決め、仕事のやり方を決める働き方が可能になるからです。家庭と仕事のバランスをとりながら、定時に帰宅する日もあれば、遅くまで在社して業務に関する調べものをする日もあるといった働き方が選べる点です。現状の労基法の中では、会社に残ってスタディ(勉強)する時間も、フリーディスカッションして業務に関連する情報を社内から入手する時間も、割増賃金の対象とされてしまいます。会社がそれを支払わなかった場合にはサービス残業として摘発されるリスクがあります。
こうした自主的に会社に残ってより高い成果を出すために努力する、あるいは学習して自分の仕事の幅を広げ情報を収集したりすることは、人が職業人として成長することに欠かせないプロセスだと思います。
仕事が面白く楽しく、また、自分を高めてくれるものだ、と感じることがどれほど大切なことか。その道のプロフェッショナルといえるような人たちはすべて「夢中になって仕事や研究に没頭」した経験があると思います。
研究職などの専門職は、労基法でいう専門業務型裁量労働制をとりいれて労働時間に関係なく一定の固定賃金で働くことが認められていますが、その適用を受けられる業務は法律で指定された種類の業務だけに限られています。
普通のサラリーマンは、会社を一歩出たら仕事のことを忘れるものです。まして休日ともなれば仕事のことは一切考えません。
会社に居て(ときには、周囲に人がいて)こそ、仕事のことだけに集中することができます。仕事に集中し気分が乗っているときは、時間がたつのは早いものです。夜の11時をまわることはザラでしょう。ときには体調は悪くないのになぜか調子が出ない日もあります。そんな日は誰にとがめられることなく定時に退社すればいいのです。上司に命令されていやいやながら残っている場合と、自主的に仕事に熱中している場合とを、杓子定規な既存の労働時間法制で論じることは無理だと思われます。
誰にとがめられることなく定時に帰ることができる。これが自己管理型労働時間制の従来とは違う働き方だと思います。このプラスの面をとらえずに、この制度は長時間労働を無制限に容認し助長するものだ、と考えること自体がおかしいのです。
ただ、冒頭で私は、この法案に賛成するが「条件つき」だと書きました。
自己管理型労働時間制は、これを導入するそれぞれの事業場に労使委員会を設置し、そこでの決議と、対象労働者の同意が制度導入の前提条件となっています。
経営者と従業員が対等の立場で労働条件について話し合える環境が整っていない企業では、ほとんどの場合、圧倒的に有利な経営者の力のもとで、従業員が無理を強いられることになることが予想されます。ですから、何でも言える風通しのよい会社であることがこの制度のメリットを享受するための条件であり、それを担保するための法的基盤が必要だと思うわけです。
政府の労働政策審議会では、「労働者が経営者と対等の立場で話し合えるわけがない」、と労働側委員が発言していましたが、私は一概にそうとはいえないと考えています。
従業員を大切にする人間尊重の経営が、掛け声だけではなく全国の企業で実践されている報告を聞く機会が増えてきています。社員にとっての幸福とは何か、を経営者は夜昼もなく考え、経営数字と格闘しながらできることから実行していく姿があります。従業員の意見や声を聞く機会を積極的にもうけて、ES(従業員満足)を追求しています。
私の所属する中小企業家同友会には、「労使見解」というものがあり、従業員を真のパートナーととらえ共に企業を成長させ、地域と共に幸福になろうという理念があります。
「労使見解」では「対等な労使関係」の項があり、そこにはこう書かれています。「(雇用)契約は双方対等の立場で取り交わされることがたてまえですから、労働者が契約内容に不満をもち、改訂を求めることは、むしろ当然のことと割り切って考えなければなりません。その意味で労使は相互に独立した人格と権利をもった対等な関係にあるといえます。(中略)労使の間では日常不断に生まれてくる労働諸条件やその他多くの問題の処理については、労使が対等な立場で徹底的に話し合い、(中略)しかし同時に、いわゆるものわかりの良い経営者がイコール経営的にすぐれた経営者とはいえません。労働条件の改善について、直ちに実行できること、実行について検討してみること、当面は不可能なことなどをはっきりさせることが必要です。」
私は、経営者と従業員との対等な立場での労使コミュニケーションを担保するものとして、労使懇談会を、定期にかつ民主的に開催することを社内規定で義務付けることを提案します。それを中小企業向けに就業規則の条文案として作成したのが、次の社長懇談会(トップマネジメントに直接意見を言える懇談会)の規定です。
第○○条(社長懇談会)
会社は、トップマネジメントに対する従業員からの意見や要望を聴取するために、社長懇談会を定期に開催するものとする。
社長懇談会は真摯でかつ和やかにおこなうことを旨とし、会社および従業員は徒に対立の局面をつくってはならない。万一従業員が当該趣旨に反する態度や行動をとる場合には、会社は以後開催しないこととすることができる。
2.従業員は社長懇談会において、経営に関すること、労働条件等会社に対する不平や不満などあらゆる質問をすることができる。ただし、非建設的な発言、独断かつ唯我独尊的発言および特定の個人を中傷する発言は、厳に慎まなければならない。
3.トップマネジメントは、社長懇談会における従業員からの発言を真摯に受け止め、改善するべき事項は速やかに実行し、実行不可能な提案に対しては誠実にその理由を説明するものとする。
4.会社は、従業員が社長懇談会で発言したこと、またその内容を理由に賃金、処遇その他一切の不利益な取扱を行なわない。
5.本条に規定する社長懇談会に要する時間は、労働時間ではない。
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