ツールとコミュニティ
昨日の続きでマーケティング雑誌I.m.pressに連載された四家正紀氏のネットライフに潜むビジネスのヒント、インターネット探検団第二弾を紹介いたします。
ネットツールの発展に伴い進化するネットコミュニティ
(株)カレン 次世代ビジネスリサーチ室長 四家正紀氏
湘南ゴミ拾いオフ
しかし、ネットコミュニティがマスメディアに対して揺さぶりをかけた例は過去にいくつもあります。
たとえば「湘南ゴミ拾いオフ」です。
日韓ワールドカップ・サッカーが開催された2002年、2ちゃんねるの中のとある掲示板で、フジテレビの試合中継が「明らかな誤審や変更した判定について取り上げず、一方の代表チームに偏向していることに抗議をしよう」という話が巻き起こりました。
しかし、ふつうの抗議行動ではおそらく無視されるし、嫌がらせや妨害活動をしても世間の支持は得られないと考えた彼らは、ちょうどそのとき同局で放送されることになっていた『27時間テレビ』のある企画に注目しました。
それは「湘南海岸がゴミで汚れているので、テレビの呼びかけにより集まった人たちでゴミを片付け、きれいになった海岸でライブを楽しもう」というものだったのですが、ある人が「番組が始まる前にゴミを拾ってしまおう」と呼びかけたのです。
すると、あっという間に「湘南ゴミ拾いオフ」(オフライン・ミーティング)というプロジェクトが立ち上がり、Webサイトが設置され、ゴミ拾い、集めたゴミの処理、モバイル接続による現地からの実況など、組織化と分業がどんどん進みました。
動員はおよそ200人。
作業は夜を徹して行われ、結局、番組放送の前日に海岸のゴミはきれいに片付いてしまいました。
当日の生中継は奇妙なものとなりました。タレントも出演してゴミ拾いを始めようとしたのですが、当然ゴミらしいものはありません。
何とか番組を成立させようと、ボランティアに貝殻や石を無理に拾わせていました。
ゴミのなくなった海岸をあたかも自分たちの手柄のように見せる演出も行われました。
こうして多くのネットユーザーが、ネットを通じてからくりを知り、ひとつの茶番として番組を楽しみました。
後に週刊誌などはこの話を取り上げ、巨大テレビ局が、掲示板とWebサイトを通じて団結したネットコミュニティの有志に完全に手玉に取られた事例として記憶されることになったのです。
ちなみに、このとき番組を見た人が放送内容の矛盾について局に問い合わせの電話を入れて、そのやり取りを公開しています。
“電凸”もまた、すでにこの時点で手法として確立していたのですね。
ツールの進化がコミュニティをパワーアップさせた
2002年と2008年の二つのケースを比較してわかることは、まず「どちらも重要な問題なのにマスメディアの報道が不十分」という現状に対する不満がネットコミュニティを動かしているという点です。
要するに「メディアがやらなきゃ俺たちがやるよ」というモチベーションです。
これをもとに、掲示板とWebサイトを通じて会ったこともない人たちが組織をつくり、方針を立て、自律的に行動することで大きなうねりをつくりだしたという点で、この二つのケースは非常に似ています。
一方で、4年の歳月の中でもっとも変化したのは「ツール」です。
掲示板はほとんど変わりませんが、毎日新聞問題の時のWebサイトには、ウィキペディアでも利用されている「Wiki」という、複数の参加者が自分で更新できるCMS(Webコンテンツ管理システム)が有効に使われています。
また、事件の経緯をまとめた動画コンテンツが大量に制作され、YouTubeなどの動画共有サイトにアップロードされています。
中には非常にレベルの高い動画作品も存在し、いちいちWebサイトを読み返さなくても問題の深刻さが理解できます。
実際に行われた本社前でのデモ活動などもビデオカメラで撮影され、すぐにネットに流されています。
愉快犯的な活動だった「湘南ゴミ拾いオフ」に対して、ツールの進化でパワーアップしたネットユーザーが分業して事実を暴き、「市民運動」として盛り上がった今回の毎日新聞への抗議活動には、この間におけるネット社会の進化が感じられます。
あまりに過激な活動や“電凸”の功罪などは別に論じなければいけないとしても、かくも大きなパワーを持つようになったネットコミュニティに対して、企業はどのように対峙していくべきなのか、改めて考えていかなければならない時期に来ているのは間違いないことだと思います。
以上です。

