守備力100%の「量子暗号通信」/知ってるつもりのITトレンド

2007年10月05日(金)
現在の暗号技術では、暗号化や復元化を行うための共通鍵を
通信者同士で保有し合い、数列により暗号化された文書やデータを送受信するといった
手段が一般的である。

そして万が一、送受信中のデータが盗聴されたとしても、
暗号さえ解読されなければ安全性は保たれるもの、という認識が持たれている。

その暗号強度は鍵の複雑さに依存するため、
具体的には「DwrY8\%&61gHT……」という大量の文字列、数列をランダムに並べる
ことで、現状では解読に数億年を要するともいわれる、高レベルな複雑さを持った
暗号化生成を行うことになる。

しかし暗号を読み解く技術も同様に高度化することで、当初の数億年という数字が
だんだん小さくなっていき、やがて解読可能な範囲にまで追いつくことは、
今のままでいけば間違いなく、現実味のある危険になり得るのではないかと思える。
演算処理能力の向上によって、将来、文字列や数列による暗号が意味をなさなくなる
可能性も、十分に考えられるだろう。



個人情報保護法が施行されて以降、
世間の意識の高まりに比例して複雑さを増すセキュリティの問題だが、

盗聴や改ざんなどを阻止するセキュリティ対策に頭を悩まされている現在の
インフラ事情において、その抜本的な解決を託すまでの期待が込められた、新しい技術がある。
“究極の暗号”ともいわれている 「量子暗号」 を用いた通信手段だ。

量子暗号通信のメカニズムは、
「モノの形は他からの観測により必ず影響を受けて変化する」と説いた、
「ハイゼンベルグの不確定性原理」(ヴェルナー・カール・ハイゼンベルク/
Werner Karl Heisenberg:ドイツの理論物理学者)に基づき、

「送受信中のデータは、盗聴された瞬間に解読が不能な状態へと変化する。さらに
その変化から、盗聴の事実も必ず判明できる」といった物理論に立脚している。

実用化の際には最も需要が多いと思われる、長距離での光通信を挙げて説明すると、
情報伝達の媒体として使われるのは、電磁相互作用を媒介する光の量子、「光子(こうし)」である。



観測された対象物が、その影響で変化してしまうという性質は、
光子そのものが微弱で非常に小さく、外部の要因によって状態が変化しやすい特徴
を持つこと(不確定性原理)と関係している。

暗号化された単一(1個ずつの粒子)の光子を通信に利用することにより、
通信中に外部から、盗聴をはじめとした侵入や観測の行為を働かれたとしても、
それらの行為そのものが、微弱な量子に対して刺激を与えることにもつながるため、
量子の符号が変化して情報も読み取り不可能となる。
同時に盗聴者の検知、特定もできることから、防犯上の信頼度も高まるのだ。


(例)

 光子◎

 光子◎ →【盗聴行為】→ 光子● ※盗聴を仕掛けられると信号が変わる
                          不確定性原理
 光子◎                    (盗聴は完遂せず、行為の証拠も残る)


   ・
   ・
   ・


既存の暗号を、
「困難な計算によって解読の時間を稼ぐ、数学的見地からの技術」と表現するならば、

量子暗号は、
「計算による解読を不可能とする、物理学的技術」という表現が適当であろう。

物理学的な視点という、これまでとは全く異なる技術要素を用いて、
究極的な領域にまで安全性を高めた画期的な技術が、量子暗号なのである。



量子暗号通信は現在も、様々な企業や研究機関によって開発が進められている。
2006年6月には三菱電機・NEC・東京大学の共同プロジェクトが、量子暗号通信の
利用範囲を数百キロメートル単位に拡大するための、中継技術の開発を発表した。

しかし実用化には、まだまだ時間が掛かりそうな気配である。
単一化された量子(光子)を発生させる技術がまだ、十分でないのだ。

非常に小さくて微弱な物質を生成する困難さが、情報の盗用を防ぐ要素の未完という
大きな問題につながっているだけに、当初の理想とされていた量子暗号通信の形を
実現させるには、まだ相当の年数を要するのではないかという見方もある。


絶対盗聴不可能といわれる量子暗号通信が、社会インフラとして当たり前のごとく
存在する世の中を目指して、実用化に向けた研究がどう形になっていくのか。
今後の動向を大いに注目したい。


(文:フィデリ編集部 松尾)


●「量子暗号通信」関連サイト●
三菱電機株式会社 研究開発(http://www.mitsubishielectric.co.jp/corporate/randd/
独立行政法人 産業技術総合研究所(http://www.aist.go.jp/index_ja.html)

 

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