今回は8月30日付の産経新聞の記事をご紹介します。
山は歩くものか、走るものか−。
新しいアウトドアスポーツとして浸透するトレイル(小道)ランニング。
起伏のある山岳地帯を走り、「最大高低差3千メートル」「日本アルプス縦断」といった驚愕(きょうがく)な大会もあります。
過酷さが競技の特性である一方、女性や家族連れにも門戸を広げ、市民権を得ています。
しかし、一部の登山家からは「危険な行為」と批判が出ています。
山歩き派と山走り派はどう共存していけばよいのでしょうか。
≪女性にも浸透≫
「稜線(りょうせん)を疾走する快感」。
トレイルランの魅力は、既存のロードを走るのと百八十度異なります。
急峻(きゅうしゅん)な山に囲まれた日本の国土も手伝って、北海道から九州までレースの開催条件を満たします。
10月2日、山梨県富士河口湖町で開かれる「第4回富士山麓(さんろく)トレイルラン」。
5月に募集を開始すると、7月末の締め切りを待たずに、約2週間で18キロとショート(9.5キロ)の計700人の枠が埋まりました。
20代から60代まで、回を重ねるごとに女性にも浸透してきました。
大会事務局によると、「コースの設定は自然へのダメージを抑え、登山者の迷惑にならないようにした」といいます。
通常、大会では医師や看護師、場合によっては接骨師が待機することもあります。
しかし、ねんざや骨折などの事故はつきものです。
分岐で道に迷い、気付いたときには遭難という事態も起こります。
「山の中で最も信頼できるのは等高線」といわれるように、地形図の等高線から地形を立体的にイメージできる能力も求められています。
≪余裕とマナーを≫
しかし、ブームが加速する中で、山の知識やルールが置き去りにされていることを指摘する声があります。
大会の参加条件も「完走に自信のある人」など体力が優先されがち。
一般の登山家やハイカーにとって、山を走ること自体、危険に映ります。
登山客との接触事故だけでなく、岩場で走ることは落石を引き起こす原因にもなりかねません。
山岳紀行作家の石井光造(みつぞう)さんは「山は歩くものという考え方からすれば、登るスピードや登山者の最高齢、最年少といった記録を競うものではない。体力や精神力を鍛えるために走るのは構わないが、山岳レースなどで集団で走ることは問題だ。コースを設けることも自然に影響を及ぼし、静かに山歩きをしようという愛好家にとって迷惑そのもの」と苦言を呈します。
一方、競技の第一人者、石川弘樹さんは「未知なるトレイル」を求めて全国を走り続けてきました。
「トレイルランの最大の魅力はレースに参加することより、人のいないフィールドを探して気ままに走ることに尽きる」と説明。
そのうえで、「もし前方から登山客が歩いてきたら数メートル手前でペースダウンし、あいさつを交わすぐらいの余裕と配慮がないといけない。自然に対する負荷という点でも、走る行為と歩く行為はまるで違う」と自戒を込めます。
1980年代半ばに「ランニング登山」を提唱した故下嶋溪(しもじま・けい)さんは「山というフィールドを借りる以上、先住民たる登山者への気配りが必要だ」と訴えました。
スタイルが全く違う両者が共存していくには最低限のマナーやルールはもちろん、大自然に身を置く謙虚な心も不可欠といえるでしょう。
【用語解説】トレイルランニング
「山岳マラソン」とも呼ばれますが、距離や高低差などに関する明確な定義はありません。
土や岩場、砂利、木段と走路はさまざまで、未整地の路面を走ることも少なくありません。
地形に合わせてコース取りやペース配分を考え、体への負荷をかけずに走る技術が要求され、必ずしもロードの長距離経験者が有利とは限りません。
国内の競技人口は数万人。
年間を通じて大小さまざまな大会が開催され、ここ数年は大会数が増加。
海外には100マイル(約160キロ)を争う過酷なレースもあります。
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